【a day in the life】day 3 - チャールトン&サンダーランド 1997-98

 誰が言い出したかは知らないが、まことしやかに語り継がれる金言がある。「昇格するための最良の方法はプレーオフを経由することだ」と。だがシーズン中に勝点90、総得点98、そしてプレーオフ決勝で4ゴールを決めたにも関わらずプレミアリーグ行きの切符を破棄してしまうことを想像してみてほしい。それがまさに1998年、サンダーランドに起きたことだった。

試合前

「今日のチームへの期待はとても大きく、負けることは考えられない」とナイアル・クインは決勝戦キックオフ数時間前の囲み取材で語った。はるか英国北東部よりロンドンの地へ駆けつけたファン、そしてロンドンを本拠地に戦う地元クラブのファンたちが揺らす赤と白の波(奇しくも両チームともに同じシンボルカラーを採用している)は、水面に揺らぐ太陽の光のように眩く輝いていた。目がくらむほどの興奮が77,000人の間にみなぎっていた。

この決勝戦までの間、サンダーランドは過去17戦で2敗しかしておらず、ハナ差で有利と見られていた。40ポイントに達したにも関わらずプレミアリーグ降格を免れなかった前シーズンの屈辱を晴らすかのようにリーグ戦で得点を重ね、トップとなる98ゴールを獲得した。それでも自動昇格枠へは一歩届かず、彼らは3位でレギュラーシーズンを終えた。チームは監督のピーター・リードが良くまとめ、ダイナミックなフォーメーションで相手守備陣を恐怖に陥れた。

前線にそびえたつのはナイアル・クイン。6フィート4インチの大男に見えるが、その真の強さはディフェンダーが軽んじる素早い動きとタッチの絶妙さにあった。パートナーのケヴィン・フィリップスも素晴らしかった。クインの7歳年下だった彼は、相方と正反対に機を制するタイプのストライカーだった。常に準備を整え、放たれる際は一瞬だった。クインがバズーカの砲身となり、フィリップスをすさまじい勢いで打ち出した。

一方のチャールトンは準決勝でイプスウィッチにあげた2勝を含め12試合で無敗を継続していた。その直近9試合はクリーンシートを達成し、実に13時間という長きにわたりゴールネットを揺らさなかった。もう90分をそこに追加することができれば、ゴールを守るイリッチは新たなクラブレコードを達成することができた。

その防御力は火力を引き換えに生み出されたものではない。マーク・ブライトとクライブ・メンドンカの2トップを抱えたアラン・カービシュリーは矢のような攻撃を展開するチームを作り上げた。特にメンドンカはリーグ戦23得点を記録していた。また、彼は偶然にもサンダーランド生まれだったことも特筆すべきだろう。

試合を語るタネには事欠かない決勝戦だった。チャールトン側ではメンドンカのウェアサイドのルーツ、イリッチの無失点記録があった。サンダーランドではフィリップスがブライアン・クラフが記録した34ゴールという偉大な記録をあと1点で破るところだった。

試合の前哨戦、コイントスの軍配はチャールトンに上がった。彼らはシンボルカラーの赤と白を着ることが許され、サンダーランドは代わりに黄金色のアウェイユニフォームを身にまとったが、選手たちには全く人気がなかった。

試合開始 0-0

両チームのファンが送り込む熱気が選手たちを委縮させ、キックオフからしばらくは目的のないパントとパスの応酬が繰り広げられた。最初に相手に手傷を負わせたのはロンドンのクラブだった。

前半23分 メンドンカ 1-0

チャールトンは先制点で体制を立て直した。メンドンカ、ブライトとは異なり、サンダーランド側のストライカーコンビは勢いに乗ることができない前半戦だった。いくつかのハイボールを処理したものの簡単なファウルで時間を止めてしまったクイン、そしてフィリップスはほとんどボールに触ることができなかった。当然、監督はハーフタイムに懸念する。「背の高いクインに預けてばかりで全くボールをパスできなかった。ボールをグラウンドに降ろしてプレーする必要がある。私の娘のほうが選手よりもうまくできるだろう。私たちの正義を行えなかった」と。

50分 クイン 1-1

後半が始まるとサンダーランドファンは「Cheer Up Peter Reid」の大合唱を始めた。そしてファンたちの思いは5分後に形となる。ニアポストに蹴りこまれたニッキー・サマビーのコーナーキックへ猛然と駆け込むナイアル・クインの頭に当たったボールは、そのまま同サイドでゴールネットを揺らした。イリッチが持っていた無失点記録は約14時間でついに破られた。クインはゴール後、腕を回しながらコーナーポストへ走り出し、得点を祝福した。

だが花火大会はまだ始まったばかりだ。これから100分以上続くことになる。

58分 フィリップス 1-2

相手ディフェンダーが中途半端にクリアしたボールは中盤でゴール方向へ押し出され、そのままディフェンダーの背後を狙って走り出していたケヴィン・フィリップスの足元へと転がり込んだ。ゴールキーパーと1対1のシチュエーション、ここで外すほど寛容な選手ではなかった。そしてこのゴールはサンダーランドにとってシーズン100点目のものだった。その51パーセントは2人のデコボココンビによって生み出された。フィリップスはここでサンダーランドのレコードブックに名を刻んだが、イリッチはその機会をふいにしてしまった。

このゴールの直後、メンドンカは味方から放たれたロングボールに反応し再び試合を振り出しに戻したかに見えたが、それはオフサイドだった。ウェンブリーで鳴り響く耳を劈く声援が、主審の笛を聞こえづらいものにしていた。

71分 メンドンカ 2-2

そしてその10分後、今度は本当に同点ゴールが決まった。キース・ジョーンズからのロングボールを上手に扱ったメンドンカがクラドックを交わし、冷酷に右足で押し込んだ。そのボールは前方へ寄せていたゴールキーパーのリオネル・ペレスの後ろを転々と通過していった。

73分 クイン 2-3

わずか2分後、今度は右サイドから放たれた高いクロスをバックポストで待ち構えたクインが上手に処理し、左足を振りぬいた。わずかにジャンプして頭で押し込むかと見せかけて、胸で足元に落とす技術はクイン独特のものだ。サンダーランドファンは誰もがその光景を見慣れていただろう。

85分 ルーファス 3-3

奇妙な光景だった。右コーナーポストから蹴りこまれたキックに反応したリオネル・ペレスはボックス外まで走り込み、10人以上が密集しているエリアでボールをはじき出そうと試みた。当然守るべき場所は無人となり、後方でジャンプしたリチャード・ルーファスの頭に跳ね返ったボールはゴール中央へと吸い込まれていった。ルーファスはチャールトンにとって守備の要と呼ぶべき選手だった。

99分 サマビー 3-4

両陣営は後半までガンマッチを続け、オープンな展開が続いていた。選手たちは疲弊の色が濃くなり始めた。当時35歳だったブライトはウェンブリーでの最後の試合を終え、フレッシュなスティーブ・ブラウンがメンドンカとコンビを組むことになった。

その疲労はスタンドにも伝播した。サンダーランドが3人を使った見事なショートパスの崩しで勝ち越しゴールを挙げた瞬間でさえ、そのセレブレーションはすぐに終わり不安とも緊張ともつかない静けさが広がった。マッケムたちはここで試合が終わるだろうと信じていただろうか?

103分 メンドンカ 4-4

メンドンカがハットトリックを決めて再びチャールトンに息を吹き込むのに、それから3分ほどの時間しかなかった。ブラウンからの低軌道クロスを右足で処理し、6ヤードの位置からそのままボレーで相手ネットへと発射した。

ペナルティ

46試合と120分の末に決着がつかなかった最後のプレミアリーグ昇格枠を賭けた戦いは、PK戦に委ねられることとなった。サンダーランドファンが詰めかけたエンドでその日4ゴール目を決めたメンドンカは、両手でピストルの形を作り悪役となった。

それまでの試合同様、勝者となることに消極的だった2チームは10度繰り返されたスポットからのキックでも決着をつけることができなかった。

メンドンカ、サマビー、ブラウン、ジョンストン、ジョーンズ、ボール、キンセラ、マキン、ボーウェン、レイ、ロビンソン、クイン、ニュートン・・・次々に繰り返される連続ゴールショー。しかし、終わりは突然訪れた。

サンダーランドを長く支えたマンチェスターユナイテッドユース出身のマイケル・グレイ(最終的には363試合出場)は、自分の番が来たかとしぶしぶペナルティスポットへと向かった。そして、その不安は的中した。彼がこのペナルティ戦で初めて蹴りこんだ左足のシュートは、結果的にチャールトンの歴史教科書に載ることとなるイリッチのセーブに遭った。

キーパーが半狂乱で跳ね返り、熱狂的なチームメートに追いかけられていた時、ピーター・リードはまっすぐグレイに向かった。サンダーランドファンは彼の名前を詠唱するという唯一の方法で彼を慰めた。涙なしにそれを行ったものは誰もいなかっただろう。

サンダーランドのファンが荷造りをしている間に発したクインの試合後の挑発的なコメントはすぐさま全国放送に流れた。

「まずはチャールトンにおめでとう。彼らは一年中素晴らしい仕事をした。しかし私たちがこのリーグで最高だったし、来年こそは昇格するつもりだ」

かくして熱狂のシーズンは幕を閉じた。後にこの激戦はこう呼ばれることになる。「ウェンブリーで行われた最も偉大な試合」と。

余談

この出来事のちょうど1年後、赤と白の花束がスタジアム・オブ・ライトに送られた。それらにはメモが添えられていた。ロンドン南東部から送られたものだった。

親愛なるサンダーランドAFC

プレミアリーグへの昇格おめでとうございます。

来シーズンは頑張ってください。

チャールトン・アスレチックFC

チャールトンは1シーズンで再びチャンピオンシップへと逆戻りし、代わりにプレミア挑戦するウェアサイドへの祝電だった。

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